生前対策を左右する暦年贈与の賢い活用方法
自分が亡くなる前に所持する財産を他者に譲ることを生前贈与と言います。
生前贈与された財産も相続税の課税対象となりますが、非課税枠を利用できる暦年贈与と相続時精算課税について理解し、特に暦年贈与を賢く活用して節税に活かす方法をお伝えします。
毎年110万円ずつの基礎控除を受けることができる暦年贈与
本人が亡くなる前に譲り受けた財産に対しては、1月1日~12月31日までを一年として考え、その合計額について110万円の基礎控除を受けることができますが、110万円を超えた分に対しては10~55%の贈与税がかかります。
従って節税対策としては、毎年110万円を超える財産を継続的に贈与し、基礎控除を受け続けることが主となってきます。これを暦年贈与と呼びます。
ただし、毎年同じ金額を同一の相手から贈与され続けていた場合、「あえて分割して贈与を行っている」と受け取られる可能性もあり、この場合は全体の贈与財産に対して贈与税をかけられてしまいます。
このため、毎年贈与する金額は、基礎控除額の110万円よりやや多くしたり、毎年の贈与額に変化をつけたりする工夫が必要になってくるのです。
仮に、相続人である子3人に対して毎年150万円ずつ10年に渡り贈与し、税率が10%であった時の3人分の税額を算出してみます。
1人あたりの贈与税 | 150万円―110万円×10%=4万円 |
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10年間あたりの贈与税合算 | 4万円×3人分×10年間=120万円 |
10年かけて贈与していった結果、贈与税額はトータルで120万円と非常に低額になってきます。
もし暦年贈与を活用しなかった場合、基礎控除を受けられないので、多くの相続税が課税されることになります。
贈与税が10年あたり120万円なのに対し、相続税だった場合はさらに高い金額になってきます。
このような高い節税効果を得るためには、将来的な相続税額と贈与税額の比較を行い、早い時期から少しずつ贈与を開始していくことが大事なのです。
2500万円までの非課税枠がある相続時精算課税制度を選択することも可能
親や祖父母等の直系尊属から成人した子や孫に対して財産が贈与された場合、相続時精算課税制度の仕組みを選択することもできます。
暦年贈与との併用はできないため基礎控除の110万円は受けられませんが、贈与の合計額が2500万円まで非課税の扱いとなります。2500万円を超えた分に対しては、20%の贈与税が一律で課税されます。
譲る財産は金銭に限らず何でも良く、贈与が複数回に渡っても問題ありません。
贈与を受けた時に支払った税金は、既払い分として相続時に控除されますが、最終的に相続した財産額よりも既払い税額の方が大きかった場合、還付の対象となります。
暦年贈与と相続時精算課税制度の違いを理解して慎重に選択することが大事
暦年贈与と相続時精算課税制度は併用することができず、いずれかを選択する仕組みになっています。しかも一旦相続時精算課税制度を選ぶと後から変更することができません。
従って、贈与税と相続税の差を節税に活かした暦年贈与と、贈与時と相続時の財産評価額の差を活かした相続時精算課税制度を十分に理解し、自分の場合はどちらの方が大きなメリットを得られるか判断できる状態で選択しなければなりません。
また親や祖父母から子に対して現金を贈与する場合に注意したいのが、名義預金と呼ばれるものです。
親や祖父母が子の名義で預貯金を行っているものの、実際の管理は子ではなく親や祖父母である場合や、金融機関が子の居住地にない場合、通帳や印鑑を子が所有していない場合等は、名義は子でも実際の所有管理は親や祖父母であると見なされ、節税対策を成さないことになってしまいます。
どちらの方法でどのように課税され、メリットがどう異なるのか、素人判断ではなく専門家である税理士とよく相談し、じっくり計画を立てて節税対策を実行することが大事です。
生前贈与は税理士に相談し慎重に対策を練って実行する
贈与を行う本人が亡くなる3年以内に譲られた財産は、控除を受けられず相続税の課税対象となりますから、慌てて贈与について検討し実行してもメリットを得ることができません。
生前の元気なうちから信頼のおける税理士に相談し、幅広くサポートを受けながら綿密な節税対策を行ってこそ、残された家族が恩恵を受けることができるのです。
当事務所でも、亡くなる10年前から相談に来て頂き時間をかけて準備すれば、相続税は十分に軽くできると考えています。
しかし、いつ相続が発生するかは誰にもわからないため、思い立ったタイミングですぐにご相談頂くことをお勧めいたします。死亡保険金のある保険に加入しているようであれば非課税枠も取れますので、資産圧縮のための活用についても話し合うことができます。
最も重要なのは、依頼者と税理士がしっかりとした信頼関係を築けるかどうかという点です。
本人が大切に育ててきた財産を大事な人に贈与するという、とても繊細なテーマだからこそ、両者の間の深い理解と密なコミュニケーションは非常に大切になってきます。
初回相談で緊張されている方には世間話から始めるなど、リラックスした雰囲気を作ることも心がけておりますので、ぜひ安心して相談にお越しください。